2022年総括(本)
今年は通勤電車で読書することしか楽しみがありませんでした(職場に向かうという明確な目的のもと行うので時間を有効活用しているという自覚が得られ、また40分弱の乗車なので集中力が持続するため)
○本当の戦争の話をしよう - ティム・オブライエン
ベトナム戦争ものに惹かれがちなので読みましたが終盤で語られる創作への真摯な思いにグッと来ました
氏の饒舌な文章を読むのは毎回本当に楽しみなのですが、今作は精彩を欠いているのか感情むき出しかと思えばいつもの調子だったりと掴みどころの無さが逆に良かった気がします。最後の知り合い数名と絶交された云々のくだりにリアルな悲しみを感じました
○つながり過ぎないでいいーー非定型発達の生存戦略 - 尹雄大
淡々とした文章ですが、非定型発達の当事者として感じてきた/行動してきたことをミクロに見つめ、分解して丁寧に捉え直していく過程が尋常でなく精密で良かったです
○みんな政治でバカになる - 綿野恵太
この国で(特にSNSで)政治について語る際に発生しやすい事象について大量の資料を参照しつつ分かりやすく解きほぐしていくのが良かったです
時間軸や登場人物が入り乱れ虚実が混じり合うなか一つの巨大な物語をまとめあげていくのがスリリングで面白かったです
○舞踏会へ向かう三人の農夫 - リチャード・パワーズ
時間軸の異なる3人の物語を併走させながら戦争と20世紀というテーマを描こうとするのは"黒い時計の旅"に近しいですが、ヘンリー・フォードの平和船やサラ・ベルナールといった歴史の片隅にあるようなエピソードを織り混ぜつつ饒舌かつ衒学的にストーリーが紡がれており、大袈裟な物言いですが文章を読むのが楽しいねと思いました。パワーズは生物学と現代音楽史を並列する"オルフェオ"など他作品も良かったのですが、本作も含めて通底するテーマは割とストレートでオプティミスティックであるように感じました
○異形の愛 - キャサリン・ダン
だいぶ前に観劇して感銘を受けたロロ"父母姉僕弟君"の影響元ということで数年越しに読みました。フリークス一家が運営する巡業サーカスの物語であり、えげつない描写と読みづらさに本当にこれ影響元なのか…となりましたが、悲哀と美しさに満ちた結末に辿り着いた時に家族の絆を語る物語として非常に豊かな作品だったと感じました
特異な文体によるスピード感とグルーヴに圧されつつ普遍的なテーマに対してこちらが恥ずかしくなるほど真正面から対峙し答えを出そうとする姿勢に美しさを感じました。"熊の場所"も大変良かったです
○布団の中から蜂起せよ : アナーカ・フェミニズムのための断章 - 高島鈴
集団や社会に溶け込むことや一般常識を身に付けることを人生の目的にしてきた(今もそうである)自分にとっては、読みながらお前はどうなんだと常に問われ続けるような読書体験でした。今後何年かは良くも悪くも自分の中である種の基準になり得る本だったという気がしています
○終わりの感覚 - ジュリアン・バーンズ
ミステリ色の強い筋書きの面白さもさることながらシンプルでありつつ情報量や示唆の多い文章に惹かれました
○生活保護特区を出よ - まどめクレテック
あまりにも現代を感じさせるテーマに対して丁寧に向き合いつつ重くなりすぎない感じが好きです
イコルスン先生の漫画には時折オフビートなコメディの隙間から叙情が噴き出す瞬間があるように感じるのですが、本作の中盤以降の展開はそれが制御できない勢いで表出するかのようで本当に強烈でした
○地元最高! - usagi
ドラッグネタや反社ネタを乱用しながらそれ自体に安易に寄りかからず笑いのキレを維持する技術力とセンスが最高でした